2024年05月
2024年05月16日
Leak TL/50 PLUS KT88の赤熱

懇意のお客様から、Leak TL/50 PLUSの修理を依頼された。
私がオーバーホールし、電源トランスが故障したときには、国産の現行品で載せ替えたなじみ深い真空管アンプである。
電源トランス交換の際には、このブログにも書きましたのでご参照ください。
さて、今回の故障は、KT88が赤熱するという最悪のものでした。
私は、真空管の赤熱だけは避けたいと思っています。
Leakの真空管アンプには、TCCのペーパーインオイルコンデンサーが使われていました。
アルミの筒の両端をゴムで密閉したコンデンサですが、コムでは耐久性に問題があり、NOSであっても絶縁抵抗の落ちているものがほとんどです。
パワー管の赤熱を何度か経験し、音が良くてもパワー管には到底使えないと諦めました。
現在は、両端を碍子で密閉してあり、絶縁抵抗の劣化がほとんどないセラミックエンドのペーパーインオイルコンデンサーを使っている。
このコンデンサを使うようになってから、パワー管の赤熱は全くなくなっていました。
ところが、今回の赤熱は、セラミックエンドコンデンサーに交換してあるアンプで起きているのです。
お客様、ちゃんとテストをしてくださっていて、赤熱したKT88を別の正常なKT88に入れ替えても、やはり赤熱するそうである。
正常なKT88が赤熱するのでは、アンプに問題があるとしか考えられない。

赤熱は嫌いだから、原因が確定し、修理が完了するまでテストは行わない。
すぐに原因はわかるだろうと高をくくっていた。
わからないのである。
原因となる部品の異常を、測定器を使って調べる。
部品の異常は全くない。
なすすべがない。
電気知識の豊富なお客さんに相談する。
色々話した中で、真空管が原因で赤熱することもあるとの話が気にかかった。
ただし、その流れでは、正常な真空管でも赤熱したことが説明できない。
さらに調べてみよう。
赤熱した時、もともと刺していた2本が送られてきていた。
問題はないだろうと思いつつ、TV-7で測定してみる。
え、ダメじゃん。
2本ともヒーターは問題ないが、廃棄値44に対して、片方は60で正常、もう一方が、なんと0である。
これが原因だろう。0などという値は、初めて見る。通常は低い値でもいくらかはあるのが普通だ。
正常なKT88でも赤熱したことがよくわからないけれど、たぶんアンプは問題がないのであろう。
手持ちの真空管を刺してテストしてみる気にようやくなった。
テストしてみた。
O.K.大丈夫、赤熱はしない。

翌日、お客様に電話する。
興味深い話になった。
赤熱したのは、茶色いシミがついている方の真空管だそうである。
茶色いシミのついていたのは測定値60の正常な真空管である。
異常な真空管は赤熱せずに、正常な真空管が赤熱したことになる。
そうか、こういうことか。
測定値0の真空管のせいで、正常な真空管が赤熱したのではないか。
そうすると、赤熱した真空管を別の正常な真空管に差し替えても、やっぱり赤熱するという、アンプの異常と勘違いしてしまう症状が、真空管の異常で説明できる。
アンプは問題なく、赤熱した真空管は正常で、赤熱しなかった真空管(測定値0)が異常だったのだ。
ヒーターが切れていないのに、測定値0の真空管も初めてなら、セラミックエンドのコンデンサー搭載のアンプで、真空管の赤熱が起こったのも初めてだったので、振り回される結果になりましたが、貴重な経験でもありましたので書きました。
さて、修理の必要はなかったのですが、暗中模索の状態で、セラミックエンドコンデンサを交換しました。
完了後のテストです。お聴きください。
Ginette Neveu Tzgane Ravel Leak TL/50
Eve Boswell Sentimental Journey Leak TL/50
gtkaudio at 03:46|Permalink│Comments(0)
2024年05月05日
学燈館時代の塾生が訪ねてきた
20年ほど前まで、町田で学燈館という塾を開いていた。
30年以上前の塾生の一人から、連絡があり、店に来るという。
最後にあったのは20年以上前だから、本当に久しぶりである。
私の記憶では、理解能力があり勉強のできる生徒だと思っていた。
今回、本人の話では、塾に入って成績が急に上がったのであって、入る前は全然できなかったという。
その日の課題が終わらなければ、残ってやらなければならない。それでも終わらなければ。土日に来て終わらせるという厳しい塾であったから、成績が上がるのは当然であった。
ただ、あがりかたは生徒による。彼は急激だったのだろう。
彼、オーディオを始めたという。
中国製の小さなセットを持ってきていた。
DAコンバーター、プリアンプ、パワーアンプの3種類である。
どれも1万円以下だという。
スピーカーはBOSE、中古で買ったそうだ。
ネット上のデータで再生する。
聴く。
それなりの音は出る。
満足なら、他人がとやかく言うものではない。
良い音は人によって違うものだから。
私の店に来たのは、音を比較してみたいからだ。
店のシステムで鳴らす。
この頃作ったPX4のシングルステレオアンプ。珍しく、ほとんどが国産の部品で作ってある。
確認したかったのは、国産のアウトプットトランスでどんな音が出るかだった。それと、フィルムをオイルで満たした現行の国産オイルコンを電源部に使って結果を見たかったのである。
なかなかの音だと思う。
タンノイのChatsworthで鳴らす。Goldのスピーカーが入っているが、箱はRed用である。
プレーヤーは、Thorens TD/124。
ジャズも好きらしい。私よりもよく知っている。これは名盤ですね、というから、複数枚ある国内盤をプレゼントした。
聴いた。
驚いている。ひどく興奮している。
奥行き感がすごいという。
私のわからないことを言ってくれる。
音の何を聴くかは、人によって異なる。
私が気になるところは、音色なのだと思う。奥行き感はわからない。
好みのところを追求すればいいのだ。他人の言うことに合わせることはない。
私の耳はあまりよくない。店にくるお客さんのほうが、耳が良いと感じることが多い。
私の場合、太く、情趣があり、濡れたような音であってくれればいいのである。
当然、塾の話もした。
まずソファーに座っての彼の第一声は、「これですね、塾ですよ」であった。
店の片付いていない雑然を表現した言葉である。
最初は店の汚さを受け入れた彼も、最後の頃になって本音を口走った。
「動線だけは確保しましょうよ」
うーん、そうだよな。
だけどダメなのだ。片づけられないのだ、俺には。
誰でもができることが、できない人間もいることを教えておくべきだった。
塾生にとってはつらかったことも、今となっては笑い話になる。
懐かしくもあり、楽しい時間だった。
私が、こわい教師だったという話には、今もって同意できていない。
あの頃の標語があった、
「いつも優しい学燈館、みんなで行こう学燈館」だったじゃないか。
どうか、忘れないでくれ。
gtkaudio at 03:28|Permalink│Comments(0)