2023年07月
2023年07月19日
芸術、この鼻持ちならない言葉
考えている。
芸術という言葉を使いたいと思った時、私ごとき下賤のものが使ってよいのだろうかと、躊躇させる力が働く。
私の中では、芸術の定義は、人間の感覚、感受性、もっと気取れば感性、を主体とする分野に属するものである。
論理を主体とする学問分野とは、豁然と異なる。
この定義だけならば、私ごとき下賤なものでも何の躊躇もなく、芸術という言葉を使える はずである。
しかし現実は、芸術という言葉を使おうとすると、それを躊躇させる力が働く。
このような躊躇させる力を、私は不当なものだと思うのだ。
似た言葉として、芸能という言葉もある。
芸能という言葉は使いやすい。
ただ範囲が限定される。文学、絵画は芸能に含まれない。
それに、古くからある日本の伝統的な感受性を主体とする分野に、芸能という言葉が限定的に使われる。
だから、感受性を主体とするあらゆる分野の総称としての言葉は、芸術だけしかない。
芸能より、芸術のほうが、より評価の高いものと感じる。
芸能も、芸術も、ともに人間の感受性を主体とするものとしてあるならば、このような違いはないはずである。
芸術的だなあ、といえば、それだけで評価の高いものとみなされる。
芸能的だなあ、といったとしても、評価が高いとはみなされない。
つまり、芸術という言葉は、それだけで価値のあるものを表してしまう。
価値のある芸術という言葉。対して教養のない私。
かくして、私のような教養のない下賤のものが、高尚な芸術を語ることがはばかられると感じるのである。
不当だと思う。
感じるという能力は、危険を察知する能力と密接に関連する、人間に備わった基本的な能力であるはずだ。
論理よりも古くからある、生命を維持するための大事な能力であったはずである。
その中でも、喜びをもたらすと感じるものの集合が、芸能や芸術になった。
ひどいじゃないか、芸術という言葉自体を高尚に感じるなんて。
芸術という言葉には、分類を超えて、西洋の文化をいち早く取り入れた上流階級の選民意識を表す手あかが、べっとりとついているように感じる。
西洋文化を知識として取り入れた教養ある人たちが、お前たちにはわからないだろう、わからないやつが芸術など語るなと、入れ代わり立ち代わり言い続けてきたのである。
特に、知識は目いっぱいあるが感じる能力のない評論家という輩が、論理能力を駆使して、下賤の者たちの好むものを、貶めてきたのである。
かくして、分類としてあるべき、芸術という言葉は、教養のない私のような下賤の人間が使うことをはばかられる、鼻持ちならない気取った言葉になってしまったのである。
人間の感受性を基本とする全分野を表す適当な言葉があれば、芸術なんて気取った言葉など使いたくないのだけれどねえ。
今は、芸能というフラットな言葉を冠して、芸能芸術という言葉を私は使っている。
これで芸術という言葉の気味の悪い手あかが、少しは薄れるのではないかと思っている。
ダメか。
2023年07月11日
12インチ用砂入りスピーカーボックス

懇意のお客様と電話で話していた。
Wharfedaleのサンドフィルド10インチ用スピーカーボックスは音が素晴らしいとさかんにおっしゃる。
私の店にあるメインのスピーカーは、お客様がお持ちのオリジナルを参考に、そのコピーを家具職人さんに作ってもらったものである。
私自身、オリジナルを聴いた時、その音の良さに感動し、何台も砂入りバッフルを自作した。
すべてうまくいかなかった。
ワーフデール特有の高音のきつさを感じるのである。
オリジナルの砂入りボックスはその高音のきつさを取り除き、かえって魅力的な高音に変えてくれている。
ワーフデールの創始者のBriggsによって考案された板と板の間に砂を挟み込む方式は、よくこんなことを思いつくなと感じるほどに独特のものである。
自作ではだめだ。
家具職人さんに相談した。
作ってみるとおっしゃる。
2台注文した。
さすが専門家、オリジナルとそん色ない音の砂入りボックスを作ってくださった。
GTKオーディオのYouTubeにも数多く登場しているドライバーが3本ねじで固定されたスピーカーである。
さて、懇意のお客様との電話に戻る。
新たな提案をされたのである。
12インチ用の砂入りボックスを作ろうとおっしゃる。
さて困った。
問題がいくつかある。
私も聴いたことのない箱を作るのだ。失敗に終わる可能性がある。
12インチにしたからといって、必ずしも良くなるとは限らない。
お客様に、そのことをことわって、ある意味ばくちみたいなものであることを承諾してもらった。
結果が悪くても、買い取ってもらうことになる。
次は、職人さんが受けてくださるかどうかだ。
以前、私が12インチ用砂入りボックスを頼んだことがあるのだ。
結局うやむやになった。
めんどくさいのだ。その面倒に比べて、報酬が少なかったのであろう。
もちろん、職人さんの提示した額をお払いする約束だったが、その提示額にも満足していなかったのである。
その気持ちはよくわかる。私と同様に高額の提示のできない人である。
仕方がない。こちらから高額提示をする。
以前の額は、安すぎた。自分でも作って面倒は十分承知している。
1.5倍以上の額を提示して、納得してもらう。
お客さんだけにリスクを負わせるわけにはいかない。
私も1台作ってもらおう。お客さんはステレオで聴く、だから2台である。私はモノラルが好きだ、だから1台。合計3台の発注になった。
台数が増えたことで、職人さんも喜んでおられた。
まとめて作るほうが楽なのだ。
キャビネットだけで、1台30万円か、高価だが、それだけの価値はある。
私の取り分はあるが、職人さんのほうがずっと多い。
こんな面倒なことをやってくれる職人さんはそうはいない。
概略は私が示したが、具現化するのは職人さんだ。
大切にしなければならない。
職人さん、ほかの仕事もあるから、時間がかかる。
半年ほどかかった。
出来たのである。

まずは、店に1台送ってもらい、状態を確かめ、音出しをする。
出来は素晴らしい。外観もなんとも魅力的である。
音を出す。古いGoodmansのアルニコユニットを装着する。私の好きなユニットだ。
すばらしい、リアルだ。もちろん仮想のリアルであるが。
お客様に結果をお知らせする。
ちょっと興奮して、いい音だと、そのままの気持ちを伝えてしまった。
人の好みは必ずしも一致しない。ちょっと抑えるべきだったか。ハードルを上げてしまった。
まあ仕方がない。あとは、まな板の鯉である。
シャラクセー、どうとでもしてくれ。
私の店に職人さんがみえ、お客様に送る際の確認をする。
ねじとワッシャーとナットを付属してほしい旨伝える。
出来上がった家具を送る際に使っているヤマトの特別な送致法があって、梱包、開梱もすべてやってくれるそうで、組んだ状態で送致できるとのことである。
組んだ状態とは、何のことか。
実は、このボックス、組み立て式なのである。


4個の部品から出来上がっている。
二つのウイングのついた正面パネル。2枚の裏パネル。上部の蓋。以上4個である。底部に板はない。
正面パネル、裏パネルの両方に砂が入っている。
もともとは2個の裏パネルはなく、部屋の4個のコーナーのどこか1個にはめ込むものであった。
つまり、正面パネルと蓋があるだけで、壁が裏パネルの代わりだったのである。
壁にぴたりと接触するように、2個のウイングがついている。
吸音材は一切ない。
お客様のところには、日曜に到着した。追跡番号で、配達完了になっていた。
蓋を開けて、ドライバーを入れるのだが、お客様のワーフデールCS/ALやFS/ALを装着するのはアルニコが大きく重たいので大変だろう。
音出しの結果は、1週間ぐらい待たないとならないかもと思っていたら、月曜に電話がかかってきた。
すごい音だとのことである。10インチなど比べ物にならないそうだ。
お客様、私の好みと同じだから、大丈夫だと思っていたけれど、やはり不安はあったので、安心した。
GoodmansとWharfedaleのボルトの位置は異なる。両方に対応できるように、穴は8個空いている。
Wharfedaleのほうが径が大きいので、外側を使う。
ともに12インチは多くの種類を持っているので、いろいろ付け替えて楽しめる。
Tannoy Red12インチもGoodmansと同じボルト位置だから、装着可能である。
TannoyもGoodmansが作っていたというから、同じ穴径なのかもしれない。
さて、YouTubeにアップした。
聴いてみてください。
べラフォンテのジャマイカフェアウェルは私の好きな曲なのですが、視聴があまり伸びませんね。
Deccaの可搬型レコードプレイヤーですが、以前に紹介したDeccaの6角形プレイヤーと同じターンテーブル、同じトーンアームです。
アイドラーにへこみがあって、前半にぼこぼこと雑音が入っていますが、そんなところに意識を集中しなければ、音の良さはわかると思うのですが。
まあ、そのうち削ってみるつもりです。
雑音が減れば音がよくなるなんて嘘です。音の良さはそんなわかりやすいところにはありません。精密に作ってあるものは音が良いというのも嘘です。見た目を楽しんでください。音は聴いてみなければわかりません。音は芸能芸術の世界ですから。
すみません前置きが長くなりました。聴いてください。
Belafonte Jamaica Farewell Sandfilled cabinet Goodmans 12" driver Decca XMS
次は、視聴回数が多いです。
YouTubeのコメント欄に質問が届いた。このレコードはオリジナルかどうかというものだった。もちろん国産であり、オリジナルではない。
オリジナルでなければ、いい音は出ないと思っている人が多くいる。十全な情報を引き出す能力のあるオーディオセットなら、国産レコードでもこれだけの音を引き出すことができるのです。
John Coltrane I want to talk about you Sandfilled cabinet Goodmans 12" driver Decca XMS