2019年02月

2019年02月11日

孫子


海音寺潮五郎の「孫子」の上巻が寝床の周りにごろごろしている本の中から見つかった。

いつか買って、読んでいなかったのである。

読む本がなくなったので、読んでみた。

はまった。


孫子は兵法の書という予備知識しかない状態で読み始めたので、まずは面食らった。

孫子が出てくるはずなのに、孫武が主人公である。

孫武って誰よ、って感じである。

まあいい、そのまま読んでいった。


全編、他人(ひと)の心理を読む小説である。

特に、才あるものに対する嫉妬心に対して、孫武はアンテナをめぐらし、自らおよび仲間を守るのである。

嫉妬心を抱いた人間は、醜い顔になる。

それを読み取る能力のない人間は悲惨である。

孫武はもともと弱い人間として描かれている。

他人の心を読む能力は、弱い人間が持つ特権であると私は思っている。

私自身が弱い人間だからよくわかるのである。

海音寺潮五郎も同じように考えているのだと思った。

ちょっと違っていたが。それは後で書く。


ところで、この小説は、上下2巻になっている。

孫武が孫子なのだと思いながら読んでいた。

当然、上巻で壮年、下巻で老年であろうと読み進めていた。

ところが、上巻で孫武の話は終わってしまったのである。

何だこりゃである。

まあ、私に知識がないだけのことではあるが。


上巻しかなかったので、急きょ、下巻を買った。

今度は、孫 臏(ぴん)の話になった。

面食らった。

孫武から何代か後の子孫にあたるそうである。

孫 臏(ぴん)は、明るい性格の人として描かれている。

かつ、他人(ひと)の心を読む能力があるのである。

海音寺潮五郎は、明るい暗い、強い弱い、に関係なく、他人の心を読む能力のある人はいると考えているようだ。

そうかもしれない。


下巻も面白い。

無二の親友に騙され、ひざから下の足を切り取られ、幽閉される。

脱出行と恨みを晴らす物語である。

無二の親友が持つ嫉妬心から話は展開する。

孫武に比べて、孫 臏(ぴん)は、明るく強い性格であるがゆえに、嫉妬心が見抜けなかったと海音寺潮五郎は考えたのかもしれない。


海音寺潮五郎の創作部分も多いのだろうけれど、孫 臏(ぴん)の話でさえ紀元前4世紀である。

何でしょうね、人間の心は進化していませんね。

特に嫉妬心はね。



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