2024年08月24日

2台のGarrard Model-Tの整備 その1

2台のGarrard Model-Tの整備を依頼された。

古いものだし、かなりの工夫を必要とする。

まずは、比較的状態の良かった方から紹介する。

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英国から購入したらしい。200‐250V仕様を100‐130V仕様に変更する。

方法は書いてある。

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心臓部に行こう。

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3本の軸がたっている。

真ん中の軸は、モーターの軸でもある。

これがアイドラーに触れると、78回転になる。

左の軸は真ん中の回転をゴムベルトで減速する。これがアイドラーに触れると33回転になる。

同様に右の軸は、45回転用である。

ベルトが命だが、弾力を失っているものが多い。

今回ついていたベルトは状態が良かった。

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スイッチ機構である。

真ん中あたりのマイナスねじの頭が力点である。

左隣にある丸い頭のリベットが支点である。

ばねの左上にある3角形が力点で、スイッチが入る。

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テストのために手持ちのDenon DL-102を装着した。

DL-102がいい音になった。今までで一番いい。



聴いてみてください。

Art Blakey Along Came Betty Garrard Model-T Denon DL-102 mono

菅原都々子 月がとっても青いから Garrard Model-T Denon DL102 Mono



その2では、おもちゃのようなプラスチックのアームに、セラミックカートリッジの組み合わせが出てくる。

これがまた音がいい。

ご期待あれ。

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2024年07月29日

Thorens TD/124の1枚板ベースに穴をあける

Thorens TD/124用の1枚板ベースをYahooで販売した。

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右から、レンガス、ケヤキ、チーク、左の2列がウォールナット

レンガスという1枚板があった。

レンガスとは初めて聞く名前だが、ほかの1枚板に比べても、ひときわ美しく、魅力的な材質であった。

ただし2枚しかない。

1枚が売れた。

問題が起こった。

板幅が大きく、左側を削らなければ、穴が合わなかったとの苦情である。

さらに、板が固すぎて、通常のドリルでは、21㎜の穴はあけられなかったそうである。

ちょうど懇意のお客様からDecca MK1アームをレンガスのボードに装着してほしいとのご依頼があり、確認することにした。



確認すると、確かに板幅は2㎜ほど大きく、左側を削らなければならなかった。

お詫びをしなければならない。ケヤキのきれいな板を一枚お送りした。

板が固すぎるとの問題も確認したが、これは難なくクリアーした。

どちらかというと簡単に穴が開いた。



そうか、使う道具によって、簡単であったり難しかったりするのかもしれない。

私がやっている方法を公開してみる気になった。

私のやることはすべて自己流ですので、最善の方法ではありませんが、簡単にできますので、参考にしてみてください。



それでは始めよう。

必要な道具は、インパクトドライバーとドリルビットである。あと定規も必要だ。

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18㎜の木工用ドリルビット。

今回は、Decca MK1のテンプレートが見つかった。あれば楽である。

8 3/8"と書いてある。インチである。㎜に変換すると、212.725mmである。

ただし、このテンプレートを定規で測ると212㎜である。

まあ、紙のテンプレートだし、神経質になる必要はない。

少々ずれても問題はない。

テンプレートに紙を使うこと自体が、そんなに精密さを要求していないことを表している。

当然である。直線状でカットしてある溝を、円弧を描くアームでトレースしているのだ。

カートリッジが理想的な接線方向を向くのは直線と円弧が交わる2点しかない、他はすべてずれている。

聴感上全く問題ないから、この方式がとられているのである。

だから、アームの穴の位置が少々ずれても、理想的な接線方向を向く2点がちょっとずれるだけで、聴感上は全く問題ない。

そんなに神経質になる必要はないのだ。

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テンプレートなんてなくてもよい。定規で代用できる。

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軸間が212㎜になるように印をつければよい。

位置が決まったら、1.5㎜の小さな穴を貫通させる。

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次は、ベースを固定するねじ穴をあける。

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ねじ穴は、5/32"(3.968mm)と書いてあるから、4㎜のねじ穴をあけるのだが最後に開ければよい。

まずは、3個の穴の印をつけて、1.5mmのドリルで貫通させておく。

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もちろん、テンプレートはなくてもよい。

目検討で軸穴がベースの穴の中心あたりに来るようにして、3個の固定ねじの位置を確定すればよい。

テンプレートはあれば簡単にできるだけで、絶対に必要というわけではない。

工夫すればどうにでもなる。


次はでかい穴をあけよう。

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11/16" TO 3/4"と書いてある。TOとはfromが省略されている。from 11/16" to 3/4"である。

17.46mmから19.05mmだから、18mmを使う。


木工ドリルビットで簡単にあく。ガタガタいうから迷惑にならないよう気を付けて。

裏から少し削っておいて、表から貫通すると、裏側の切り口がきれいに収まる。

裏側は醜くても、見えないところだからどうでもよければ、表から一気に貫通させるのも問題ない。

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アームレストの穴は、おさまりの良い所にねじよりも少し大きな穴を開ければいいのですが、木部のどこでもよいというわけではなく、上の画像のように鉄枠が邪魔するところもありますから、気を付けて位置を決めます。

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今回はお客様のものですから、ターミナルを付けました。

SwitchcraftのRCAプラグが手に入りにくくなっているのは困りものです。


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レンガスの渋い赤は、アームのクロームメッキと相性抜群です。

実物は写真以上です。


出来上がりのテスト。

Bill Evans Montreux Someday My Prince Will come Decca MK1 Tonearm Decca MK1 Stereo

Somethin’Else Miles Davis Decca MK1 Tonearm Decca 楕円針 モノラル

書くと長くなり面倒そうに見えますが、やってみれば簡単です。

台座に穴をあけるのは、失敗すると大変ですが、それに比べ、ボードの場合は痛いですがまだ我慢できます。

ボードさえ取り換えれば、様々なアームを体験できるTD124の利点を最大限活用するには、ボードの穴あけを自分でするのが近道です。

どうかやってみてください。

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2024年06月01日

Leakに使われていたボリューム

Leakのアンプに使われていた部品の音の良さには驚く。

Leakは、音を聴いて部品を選定していたのであろう。

スペックが良ければ、良い音が出ると信じて、性能を突き詰めたアンプでは、Leakが出していた音は出るはずがない。

音は芸能芸術の分野に属するものだから、音を聴きどう感じるかが大事なのである。

Leakはその辺よくわかっていた。



最も大事なカップリングコンデンサに、英国製オイルコン、これ素晴らしい。

真空管だって、この頃どんどん評価の上がっているMullardやBrimarの英国製真空管、これまた素晴らしい。

当然、音に大きな影響を与えるボリュームにも、良い音の部品をそろえている。

オイルコンが大事なのは音の基礎を形作るからである。

ボリュームは、最後に音を総仕上げするといってもよい。

こんな大事なことさえわかっていない人が多い。

マランツ7に使われているボリュームはクラロスタットでなければならないというではないですか。

だから、たかがボリュームなのに数万円するなどということが起こるのですよ。

まあ良い音だよな、だけどちょっと納得できないと感じた時、ボリュームを変える。

それでどれだけ救われたことか。

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Leakの初期に採用されたボリュームは、上の画像にあるMorganiteの製品だった。

音は素晴らしいが、最初期に使われただけで、以降使い続けられるAllen Bradleyのボリュームに代わる。

下の画像である。

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音は、Morganiteと変わらない。

私の耳がわからないだけで、Morganiteの方がいいといって探しておられる人もいる。

私にわからないだけかもしれない。

まあ、いい。

Allen Bradleyはご存じのように米国の会社である。

Morganiteとは形がちょっと変わっただけだから、たぶん、Morganiteを買収してAllen Bradley製としたのだ。

米国製Allen Bradley製ボリュームとは形状が全く違う。

音も全く異なる。

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昨日気づいたのですが、AB(Allen Bradley)以外にも左側に何か書いてある。

よく見ると、CLAROSTATだ。

アレンブラッドレイとクラロスタットが共同で買収したのだろうか。

アレンブラッドレイとクラロスタットは同族会社だったのかもしれない。

Morganite製は音が良いボリュームだから、その技術が欲しかったのだろう。

まあ、どうでもいいことだけど。

Morganiteを引き継いだと思われるこのボリュームも音はいいのだ。

ただし、このタイプのボリュームでも、CLAROSTATと書いてあるものは少ない。

下の画像のように、ABだけのものがほとんどだ。

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英国製Allen Bradleyのボリュームは、米国Allen Bradleyと異なり、この形のものが多い。

同じAllen Bradleyでも、英国と米国では音が異なる。

知らない人が多いが、英国の部品は、音がいい。



あと、コンデンサの会社のDubilierが、似たようなボリュームを作っていた。

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これも形が似ているから、Dubilierがこの会社を買い取った時代もあったのかもしれない。

これだって音がいい。



このような音の良い部品は、芸能芸術的に音を解する人が、音を聴きながら作り上げたに違いないのだ。

Leakが生きた時代の英国は、多くの部品メーカが音の良い部品を作ることに邁進し、音の良い部品の中から最高と思えるものを選ぶことのできた幸せな時代だったのだろう。

Leakに使われている部品をみていると、性能よりも音の良さを求めてすべての部品が作られていたと感じられるのです。


以上紹介したボリュームもそのうちの一つです。

アンプづくりや修理において、ボリュームも音に影響を与える大事な部品です。

性能ではありません。それぞれの部品が持つ固有の音を見極め、良い音のボリュームを選ぶべきです。

ボリューム1個でアンプがつまらない音になってしまいますから。


以上のことはわかっている人が多いと思いますが、そうでもないのかと感じられることがありましたので、あえて書きました。

いろいろなボリュームを入れ替えて比較しても、どれも同じに聞こえるなら、ボリュームに注目する必要は全くありませんが。





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2024年05月16日

Leak TL/50 PLUS KT88の赤熱

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懇意のお客様から、Leak TL/50 PLUSの修理を依頼された。

私がオーバーホールし、電源トランスが故障したときには、国産の現行品で載せ替えたなじみ深い真空管アンプである。

電源トランス交換の際には、このブログにも書きましたのでご参照ください。



さて、今回の故障は、KT88が赤熱するという最悪のものでした。

私は、真空管の赤熱だけは避けたいと思っています。

Leakの真空管アンプには、TCCのペーパーインオイルコンデンサーが使われていました。

アルミの筒の両端をゴムで密閉したコンデンサですが、コムでは耐久性に問題があり、NOSであっても絶縁抵抗の落ちているものがほとんどです。

パワー管の赤熱を何度か経験し、音が良くてもパワー管には到底使えないと諦めました。

現在は、両端を碍子で密閉してあり、絶縁抵抗の劣化がほとんどないセラミックエンドのペーパーインオイルコンデンサーを使っている。

このコンデンサを使うようになってから、パワー管の赤熱は全くなくなっていました。



ところが、今回の赤熱は、セラミックエンドコンデンサーに交換してあるアンプで起きているのです。

お客様、ちゃんとテストをしてくださっていて、赤熱したKT88を別の正常なKT88に入れ替えても、やはり赤熱するそうである。

正常なKT88が赤熱するのでは、アンプに問題があるとしか考えられない。

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赤熱は嫌いだから、原因が確定し、修理が完了するまでテストは行わない。

すぐに原因はわかるだろうと高をくくっていた。

わからないのである。

原因となる部品の異常を、測定器を使って調べる。

部品の異常は全くない。

なすすべがない。



電気知識の豊富なお客さんに相談する。

色々話した中で、真空管が原因で赤熱することもあるとの話が気にかかった。

ただし、その流れでは、正常な真空管でも赤熱したことが説明できない。



さらに調べてみよう。

赤熱した時、もともと刺していた2本が送られてきていた。

問題はないだろうと思いつつ、TV-7で測定してみる。



え、ダメじゃん。

2本ともヒーターは問題ないが、廃棄値44に対して、片方は60で正常、もう一方が、なんと0である。

これが原因だろう。0などという値は、初めて見る。通常は低い値でもいくらかはあるのが普通だ。

正常なKT88でも赤熱したことがよくわからないけれど、たぶんアンプは問題がないのであろう。

手持ちの真空管を刺してテストしてみる気にようやくなった。



テストしてみた。

O.K.大丈夫、赤熱はしない。

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翌日、お客様に電話する。

興味深い話になった。

赤熱したのは、茶色いシミがついている方の真空管だそうである。

茶色いシミのついていたのは測定値60の正常な真空管である。

異常な真空管は赤熱せずに、正常な真空管が赤熱したことになる。




そうか、こういうことか。

測定値0の真空管のせいで、正常な真空管が赤熱したのではないか。

そうすると、赤熱した真空管を別の正常な真空管に差し替えても、やっぱり赤熱するという、アンプの異常と勘違いしてしまう症状が、真空管の異常で説明できる。

アンプは問題なく、赤熱した真空管は正常で、赤熱しなかった真空管(測定値0)が異常だったのだ。



ヒーターが切れていないのに、測定値0の真空管も初めてなら、セラミックエンドのコンデンサー搭載のアンプで、真空管の赤熱が起こったのも初めてだったので、振り回される結果になりましたが、貴重な経験でもありましたので書きました。

さて、修理の必要はなかったのですが、暗中模索の状態で、セラミックエンドコンデンサを交換しました。

完了後のテストです。お聴きください。

Ginette Neveu Tzgane Ravel Leak TL/50

Eve Boswell Sentimental Journey Leak TL/50








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2024年05月05日

学燈館時代の塾生が訪ねてきた


20年ほど前まで、町田で学燈館という塾を開いていた。

30年以上前の塾生の一人から、連絡があり、店に来るという。

最後にあったのは20年以上前だから、本当に久しぶりである。

私の記憶では、理解能力があり勉強のできる生徒だと思っていた。



今回、本人の話では、塾に入って成績が急に上がったのであって、入る前は全然できなかったという。

その日の課題が終わらなければ、残ってやらなければならない。それでも終わらなければ。土日に来て終わらせるという厳しい塾であったから、成績が上がるのは当然であった。

ただ、あがりかたは生徒による。彼は急激だったのだろう。



彼、オーディオを始めたという。

中国製の小さなセットを持ってきていた。

DAコンバーター、プリアンプ、パワーアンプの3種類である。

どれも1万円以下だという。

スピーカーはBOSE、中古で買ったそうだ。

ネット上のデータで再生する。

聴く。

それなりの音は出る。

満足なら、他人がとやかく言うものではない。

良い音は人によって違うものだから。



私の店に来たのは、音を比較してみたいからだ。

店のシステムで鳴らす。

この頃作ったPX4のシングルステレオアンプ。珍しく、ほとんどが国産の部品で作ってある。

確認したかったのは、国産のアウトプットトランスでどんな音が出るかだった。それと、フィルムをオイルで満たした現行の国産オイルコンを電源部に使って結果を見たかったのである。

なかなかの音だと思う。

タンノイのChatsworthで鳴らす。Goldのスピーカーが入っているが、箱はRed用である。

プレーヤーは、Thorens TD/124。

ジャズも好きらしい。私よりもよく知っている。これは名盤ですね、というから、複数枚ある国内盤をプレゼントした。


聴いた。

驚いている。ひどく興奮している。

奥行き感がすごいという。

私のわからないことを言ってくれる。

音の何を聴くかは、人によって異なる。

私が気になるところは、音色なのだと思う。奥行き感はわからない。

好みのところを追求すればいいのだ。他人の言うことに合わせることはない。

私の耳はあまりよくない。店にくるお客さんのほうが、耳が良いと感じることが多い。

私の場合、太く、情趣があり、濡れたような音であってくれればいいのである。


当然、塾の話もした。

まずソファーに座っての彼の第一声は、「これですね、塾ですよ」であった。

店の片付いていない雑然を表現した言葉である。

最初は店の汚さを受け入れた彼も、最後の頃になって本音を口走った。

「動線だけは確保しましょうよ」

うーん、そうだよな。

だけどダメなのだ。片づけられないのだ、俺には。

誰でもができることが、できない人間もいることを教えておくべきだった。




塾生にとってはつらかったことも、今となっては笑い話になる。

懐かしくもあり、楽しい時間だった。

私が、こわい教師だったという話には、今もって同意できていない。

あの頃の標語があった、



「いつも優しい学燈館、みんなで行こう学燈館」だったじゃないか。

どうか、忘れないでくれ。






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